会社員の副業は、会社も個人もメリットの方が大きい

 

● 副業解禁!  ロート製薬の新しい試み

 目薬やスキンケア製品で有名な、ロート製薬が、社員の副業を正式に認め、かつ後押しもするような新しい制度を導入して話題になっている。

 この制度は、同社内で「社外チャレンジワーク」と呼ばれており、休日ないし終業時間外に社外で収入を伴う仕事に従事することを認めるものだ。社員からの自発的な申請を社内で審査するが、ロート製薬は、社員のダイバーシティ(多様性)確保の観点からも副業の意義をポジティブに認めており、承認される可能性が大きそうだ。

 本来、法律論的な原則としては、個人が副業に従事することは自由のはずだったが、多くの会社は就業規則で副業を禁じたり、正面から禁じないまでも、副業には会社への申請が必要だとしつつ、具体的な申請がしにくい雰囲気を醸し出していた。

 また、これまでにも本業以外に何らかの収入を伴う副業を持つ会社員はいたが、概ね、副業の会社への発覚を恐れて、びくびくしている事が多かった。

 ロート製薬の場合、副業の申請の手続きを明らかにすると共に、会社が副業の意義を認めてくれているので、社員は、精神的に遙かに健康的に副業に関わることができそうだ。大変、好ましい措置として、前向きに評価したい。

 筆者は、ある官庁の「働き方」をテーマとする研究会で、副業自由化を明確に法制化する必要性を訴えたところ、会の出席者で法律が専門の学者さんから、法令・判例いずれにあっても、既に、副業は自由なのだから必要ないとのご指摘を受けたことがあるが、申し訳ないが、この学者さんは「世間知らず」なのだと思った。

 社員が会社と裁判を争って勝ったとして、その社員が職場で幸せに過ごせるとは到底思えない。また、裁判に至らなくても、人事考課や人事処遇で不利益を受ける可能性が大きい。少なくとも、本人はその可能性を恐れなければならない。

 今回のように会社が副業の手続きを制度化して後押ししてくれることには十分意味があるが、できれば、もう一歩進めて、副業が原則自由でなければならないことを法制化し、副業を禁止できる例外規定を狭い範囲で明確化するなど、公的な制度として、副業を後押ししてほしい。

 


● 個人から見た副業の メリット・デメリット

 筆者は、現職場及び前職場にあって、あらかじめ副業を広範に認めてもらう条件で雇用契約を結び、十数年にわたって、本業よりもむしろ副業(敢えて一言でまとめると「経済評論家」。この原稿を書く仕事も副業の側だ)の方により時間を使うくらいの「副業ヘビー」な働き方を経験してきた。また、それ以前は、ペンネームで原稿を書くなど、会社に隠れた副業を経験した時期が数年ある(本名を隠した仕事は、後の実績としてほとんど生きなかった。自分としては残念な時期であった)。

 自分の実感も正直にリストアップしつつ、副業のメリット・デメリットを点検してみたい。

 メリット・デメリット双方に、社員本人の側の個人的なものと、会社の立場からのものとがある。

 先ず、個人的なメリットから挙げてみよう。なお、断りのない限り、勤めている会社の仕事の方を、慣例に従って「本業」と書くことにする。



  【副業の個人的なメリット】

 (1)「気分転換」
 会社にやらされる仕事以外に、張り合いのある仕事を持つことはいい気分転換になる。同じ事をするのでも(原稿を書く、料理をする等)、他人からの報酬(同時に〆切りや責任もある)を伴う「仕事」の方が、遙かに張り合いがある。

 (2)「収入」
 それほど多くない場合でも、副業による収入は嬉しいものだ。

 (3)「自信」
 会社以外の場所で自分が役に立ってお金を稼げている事実は、自信にもなる。

 (4)「保険」
 本業の会社が傾いた時、リストラの対象になった時、本業での居心地が悪化した時など、本業を離れる可能性を考えた時に、副業は収入確保上の、また社会的な居場所の確保上の精神的な「保険」として機能する。

 (5)「人間関係の拡がり」
 副業を通じて、本業では会えない人とも、人間関係が拡がることがある。

 

 副業の個人にとってのデメリットも、正直に書いてみよう。

 


 【副業の個人にとってのデメリット】

 (1)「本業との競合リスク」
 本業で身につけたスキルを副業に使う場合、仕事上の利害が対立し、本業にもたらす不利益が問題化するリスクがある。

 例えば、筆者の前職場はシンクタンクだったが、外部から獲得した、コンサルティングや講演の仕事を、本業として行うか、副業として行って丸々自分の収入にしていいか、判断を迷うケースがあった。前職場の場合、実績連動的な報酬システムだったので、会社にもたらす利益と、自分が契約する報酬をバランスさせると問題は起こりにくかったが、一般的な職場であれば、この種の利益相反的状況が問題になることは十分あり得るし、この問題は社員本人にとっても、副業の最大のリスクだ。

 (2)「本業の人的資本への投資不足の可能性」
 特に、若い社員であれば、本業に集中することで得られるスキルの向上や知識の増強などが、自らの「人的資本」への有効な投資になる可能性が大きいが、副業に時間と努力を分散すると、人的資本への投資が不足する可能性がある。

 (3)「疲労」
 好きでやる副業であっても、副業が疲労につながり、本業の生産性に悪影響を与える可能性はある。この問題は、第一義的には本人が責任を負う問題であり、会社は社員を公平・適正に評価すればいいだけで、事前に審査したりするような身分ではないはずなのだが、本人が、副業で疲れることがあるのは事実だ。

● 会社側から見た社員の副業の メリット・デメリット

 さて、会社の側から見て、社員が副業に従事することのメリット・デメリットは、それぞれ何だろうか。

 ロート製薬は、メリットとして、「社員のダイバーシティ」を挙げた。これは、正直なところ気づきにくいメリットだったが、確かに、副業には、社員の視野を広げる効果があるように思う。繰り返すが、同じ事をするなら単なる趣味でするよりも仕事としてする方が、張り合いもあり力も入るので、視野の拡がりや発見は多いだろうし、これが将来、本業に役立つ可能性はある。

 また、これを会社側が好むかどうかには両論があろうが、副業を持つことで、社員が、独立した「個人としての自覚を持つこと」があるだろう。今や、社員の一生の面倒を見きることは、会社にとって「重い」。個人が自立の程度を高めることは、会社にとって悪くない面もある。

 加えて、社員の副業による人間関係の拡がりが、本業の会社にとっても有益に働く場合があるだろう。

 

 また、副業によって社員及び社員の仕事の、知名度や評価が上がった場合、これが本業の会社にとっても、広報効果になったり、イメージの向上につながったりするような、「評判の相乗効果」が得られるような副業であれば、会社としても積極的に認めたいだろう。

 他方、会社にとって、社員が副業に従事することのデメリットは何だろうか。

 先の、副業を持つ社員個人にとってのデメリットとして数え上げた、「本業との競合リスク」、「本業の人的資本への投資不足」、「疲労」などは、本業を提供している会社にとっても、デメリットとしてカウントできる要素だ。

 加えて、会社としては、個人にとってはメリットである「自信」や「保険」の効果が発生することで、社員に対して、「プレッシャーを掛けにくくなる」効果があることを嫌う可能性が大きい。会社は、社員を会社により強く依存させることによって、より安くかつより容易に、社員をコントロールできる、というのも一面の真実だ。

 また、特定の社員が副業で「収入」を持つことに対する、他の社員の「嫉妬」がそれ自体厄介であったり、全員が100%会社に奉職している仲間だという社員の「一体感を削ぐ」効果を嫌う経営者もいるだろう。

● 結論!  会社員の副業を認め、法制化せよ

 結論として、本業に対してごく限られた明白な不利益をもたらす副業以外は、会社員に副業を認めるべきだろう。そして、前述のように、これを、法制化する方がいい。

 社員をコントロールしにくくなるとか、社員間の嫉妬や一体感の喪失を気にするような、ひ弱で嫉妬深い経営者や(その周りをうろつく)幹部管理職に気を遣う必要はない。

 「一億総活躍」を掲げ、勤労者の所得水準を上げたいと願い、労働力人口の減少を補いたいと考える政府の立場としても、今、「10」の働きをしている個人が、「12」や「13」の働きに喜んで関わるかもしれない「副業」は、大いに奨励する方が、政策的にも理に適っていよう。

 副業自由化の後押しは、被用者側での権利の拡大につながる措置なので、解雇規制の弾力化など、経済的に望ましくはあっても実現が困難な政策を進める上で、有効なカード(の一部)になる可能性もある(注:筆者は、解雇の金銭補償解決を明確にルール化すべきだと考えている)。

 また、堅苦しい話は抜きにして、多くの会社員が、オープンにさまざまな副業に関わることができる会社と社会の方が、「圧倒的に楽しい」だろうと筆者は思っている。

 

 

ダイヤモンド・オンライン から転載  2016.9.6